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蒼空_memo

更新履歴やらコメント返信やら、ネタや萌え色々。基本的に好き勝手してます。

イーグル
魔法騎士レイアースのイーグル。
原作後です。あんまり深く考えてません。
名前部分が全部「彼女」です。ちょっと違和感あってもモコナのように広い心で読んでいただければありがたいです。
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ぼかっと、若干痛そうな音が聞こえた。聞いたのは実際2人のみだったけれど。

『…痛いです』
「痛くしてる」
『…』
「何で殴られたのか解らないほど馬鹿でもないでしょう?」

手を擦りながら彼女はイーグルが寝ている隣りに立っている。殴った手がちょっと痛い。いや、鈍痛が響いている分、結構痛いのかもしれない。人を、素手で殴るのがこんなにも痛いなんて。
思わず顔を歪めた。イーグルがその表情を見ることは、できない。

『…すみません』
「それだけ?」
『迷惑かけました』
「本当よ」

声には出さなかったけれど、イーグルは苦笑した。表情に出ないから誰にも知られることはないだろう。便利だけれど、やはり不便だ。自分だって彼女の顔も何も見ることができない。
セフィーロは美しい国だったと聞く。今、この国はどんな世界なのか。それをイーグルはまだ知らない。まだそれを誰とも分かち合っていない。
できれば彼女と一緒にこの国を見てみたいと、イーグルは密かに思っている。それがいつになるのか解らなくても、彼女が許してくれるならそうしたいと、勝手に決めている。

『…すいません、まだかかるみたいなんです』
「そうみたいね」
『待っててくれませんか?』
「…っ」

直後にまた鈍い痛みがイーグルの身体に走った。こんなにも彼女は攻撃的だっただろうか。…そうさせているのは自分か。気付いてイーグルはまた苦笑した。

『痛いです』
「殴らないと気が済まないのよ。……もう随分待ってるのよ」
『はい。すいません。できれば、僕の目が覚めるまでもう少し待っていてくれると、凄く嬉しいです』
「………ねえアンタ、虫がいいって言葉知らないの?」
『そう思ってます。でも、そうしてくれると僕が嬉しいなあと』
「………」
『………』

こういう場合自分の身体が自由に効いたなら、彼女を抱きしめるとかすれば良いだろうかと、イーグルはちょっとだけズレていた。今の彼女を抱きしめられない自分が、歯がゆいのかもしれない。
彼女が今、どんな顔をしているのか解らないのが、叩かれるよりも辛かった。もしかしたら泣いているんじゃないだろうか。

『目が覚めたら、一緒にこの国を見ませんか』
「…………」
『ヒカルがこの国の柱になってからは、前のセフィーロに劣らない美しい国なのだろうと、思っています。それを、貴方と見たいんです』
「本当に虫がいい男ね…」
『自分でもそう思います。駄目ですか?』

彼女がこの国にまで来て、自分の所に居る理由を解っていて、イーグルはそう聞いた。殴られても、馬鹿にされても、何を言われても、そうやって来てくれたことが嬉しくて堪らない。来てくれたことだけで、イーグルは自分の胸がいっぱいなのだ。
自分が寝ているベッドに重みが乗った。自分の身体と、彼女の身体が一部分だけ触れる。その部分だけ、他よりも温かい。そう思ったら自分に手に彼女の手が覆いかぶさった。久しぶりにイーグルは自分の鼓動が跳ねるのを感じる。初めてでもないのに、久しぶりというだけで何故だか気恥ずかしい。彼女からの行為というのもあるのかもしれないけれど。
彼女は、温かかった。

「待ってるから、…絶対起きてよ…」
『はい、もちろん』
「絶対だから」
『はい。起きたら一緒にこの国を見て回りましょう』
「うん」
『その後、両親に挨拶に行きますから』
「……うん?」
『うちの両親への挨拶も考えといてください』
「…………。やだ。ダメ」
『…駄目ですか』
「起きたらもっかい、きちんとした雰囲気で目を見てちゃんとした言葉で言って。嫌よそんな遠回しなの」
『…ふふ。解りました』

身体が動かないのが、ちょっとだけ勿体無い。彼女の手を握り返して、抱きしめて、キスができればどれほど幸せだろうか。
けれどもイーグルは悲しくなかった。胸はいっぱいだ。
唇に来た感触は、久しぶりだけれど相変わらず柔らかかった。名残惜しいけれど、彼女からしてもらえてちょっとだけ嬉しい。そのまま近い位置で彼女の声が聞こえてくる。

「全部待ってるから、できれば、早めに起きてちょうだい」
『はい。…もちろんです』

手が触れている部分は、相変わらず温かかった。

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